高松高等裁判所 昭和58年(行コ)6号 判決 1984年6月12日
高知県土佐郡本川村葛原二二八番地一二
控訴人
本川生コン工業株式会社
右代表者代表取締役
山中伯夫
右訴訟代理人弁護士
徳弘壽男
高知市本町五丁目六番一五号
被控訴人
高知税務署長
柴田晃二
右指定代理人
西口元
同
曽根田一雄
同
横山正之
同
直井正
同
西山陽男
主文
控訴人の当審における新請求の訴えを却下する。
当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、当審において訴えを交換的に変更し、「控訴人名義をもって提出され被控訴人が昭和五四年八月二五日受理したとされている、控訴人の昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度分の法人税についての修正申告書、同五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度分の同申告書並びに同五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度分の同申告書及び右各申告書に添付された別表四、同五の(一)、同七の各書面は、無効であることを確認する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「控訴会社は、昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度(五一年度)において、二五八二万〇四九九円の欠損を生じ、前期欠損金額との合計二九一六万三九八二円が翌期繰越欠損金となり、昭和五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度(五二年度)において、三七五四万八三三四円の欠損を生じ、翌期繰越欠損金が六六七二万一三一六円となり、昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度(五三年度)において、五七〇五万二〇四五円の欠損を生じ、翌期繰越欠損金が一億二三七六万六三六一円となったので、各年度分の法人税について、それぞれ法定期間内に右各欠損金及び繰越欠損金を記載した確定申告書を被控訴人に提出した。ところが、被控訴人は、控訴人から、右五一年度分につき欠損金を一〇九七万〇四九九円、繰越欠損金を一四三一万三九八二円とし、五二年度分につき欠損金を一一三四万六八三四円、繰越欠損金を二五六六万〇八一六円とし、五三年度分につき欠損金を一六九六万五六二〇円、繰越欠損金を四二六二万六四三六円とする各修正申告書が提出されたとして、これに昭和五四年八月二五日付の受理印を押捺している。しかし、右の各修正申告書及びこれに添付された書面は、被控訴人の法人税担当職員森岡某が、職権を濫用して、控訴人会社事務員松永テル子を強制し、同人に見本を示して浄書させ控訴会社代表者の印章を押捺させて作成されたものであって、控訴人の真意に基づくものではないから、無効である。しかるところ、控訴人は、その無効であることが確認されないかぎり、租税官庁との関係で、右の各修正申告書を基礎とした納税者たる地位に立たされるから、このままでは、控訴人の納税者としての権利ないし地位につき常に危険が存在する。よって、控訴人は、右の各修正申告書及びこれに添付された別表(四)、同五の(一)、同七の各書面が無効であることの確認を求める。」と述べ、本訴請求は書面が真正に成立したものではないことの確認を求めるものであるがその対象となる書面は被控訴人が保管しているため提出することができない旨付陳した。なお、控訴人は、原審において、森岡某が強制的に右の各修正申告書を作成提出させたことにより、被控訴人が右の各確定申告書に対する更正を行ったことになる旨主張し、その更正処分の無効確認を求めたが、かかる処分は存在しないとして、訴えを却下され、当審において、その訴えを右のとおり書面の無効確認を求める訴えに変更したものである。
被控訴指定代理人は、「控訴人の当審における新請求については被控訴人は被告適格を有しない。」と述べた。
証拠関係は、原審記録中の書証目録に記載されたとおりであるから、これを引用する。
理由
まず、控訴人の訴え変更の許否について判断する。民事訴訟法三七八条、二三二条の規定によれば、訴えの変更は、請求の基礎に変更がなく、かつ、訴訟手続を著しく遅滞させないかぎり、控訴審においても許されているが、本件のように、原判決が訴えを不適法として却下した訴訟判決である場合には、控訴審で訴えの交換的変更がなされると、それが旧訴の取下げを伴うものであり新請求のみが審判の対象となるため、被告(被控訴人)の有する審級の利益を保障する余地がなくなるので、その許否が問題となる。しかし、本件においては、控訴人の訴えの変更について被控訴人から何ら異議がなく、旧請求と新請求とは請求の基礎において同一性があり請求自体としてはむしろ本質的に同じものと認められ、しかも、新請求についてはそれに関する主張自体から判断することが可能であり訴えの変更によって訴訟手続を著しく遅滞させることにはならないので、訴え変更の要件に欠けることはないうえ、右の審級の利益を考慮する実際上の必要性に乏しいと思料されるから、訴えの変更自体は許して差し支えないと考える。
次に、控訴人の新請求について検討する。控訴人の新請求は、行政庁である被控訴人を相手方として、被控訴人が所持しているという書面の無効確認を求めるものであるが、かかる訴えは、民事訴訟としてはもとより許されるものではないし、行政事件訴訟法上の訴訟事項ともされていない。また、控訴人の主張によると、新請求は、その主張の各修正申告書が控訴人の納税義務についての法律関係を証する書面であるとして、それが不真正であることの確認を求める趣旨のもののようであるが、仮にかかる証書真否確認の訴えが認められるとしても、それは、権利義務の主体間の民事訴訟又は公法上の権利関係に関するいわゆる当事者訴訟(行政事件訴訟法四条後段)に属するものというべきであるから、租税に関する権利の帰属主体である国を被告として提起すべき筋合であり、これにつき、権利の帰属主体でない租税行政庁である被控訴人は、被告としての適格を有しないといわなければならない。
よって、控訴人の新請求の訴えは不適法であるから、これを却下し、なお、控訴人の原審における旧請求は、当審における訴えの変更により取り下げられたので、これについて特に裁判をしないこととし、当審における訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮本勝美 裁判官 早井博昭 裁判官 山脇正道)